新しい発想に触れる
上之郷 利昭


自動車のホンダ(本田技研工業)ではずっと以前から
「失敗コンクール」というのをやっている。

製品開発にせよ、技術改良にせよ、失敗作ではあるが、
何処となく発想がユニークであるとか、着眼がいいとか
奇想天外であるとか、あと少し工夫すればいい作品になる
のにといったものにたいしては、会社として表彰すると
いうのだから、真面目な話なのである。

 もちろん如何に失敗コンクールといっても箸にも棒にも
かからないような駄作、愚作ではダメで、成功はしなかっ
たが何処か見所があるというような内容でなければ対象と
はならない。
 創業者の本田宗一郎さんに生前、「失敗コンクール」を始
めた理由をたずねたことがある。
江川崎吊り橋下
時には水とたわむれ頭を柔らかく・・

おいしい空気で心も身体もリフレッシュ

「二人の人間がいて、一人は無傷だがこれということは
やっていない。
もう一人は一生懸命に挑戦して九回失敗している。
二人のうちどちらを採用あるいは抜擢するかと問われれば
オレは迷わず九回失敗した男のほうを選ぶね」

  −−−なぜですか?
『そりゃあ、お前、九回失敗した男は九つやってはいけな
い事を知っているということだろ。
だから、次に何かやる時は九種類のやってはいけない事を
避けるか、やり方を改めるかして十番目の仕事に挑戦する
はずだ。

 ところが、これといった挑戦をしたこともない男のほう
は何かをやり始めるとき、ひょっとすると、もう一人の男
なら絶対手をつけないような失敗から始めるかもしれない
じゃないか、しかもそれを九回、繰り返したと仮定してみな。
 二人が同じようにスタートしたとすると、すでに九回失
敗していた男のほうがはるかに先を進むことになる』

 一番いけないのは何もしないヤツだと本田さんは常々言
っていた。もちろん、いい加減なことをやるのはいけない
が一生懸命に挑戦しているのだったら、失敗は許されるだ
けでなく何時かは成功に導いてくれる源となるはず・・・
というのが本田さんの持論であった。

ひとことで言ってしまえば「失敗は成功のもと」という格言になるのかもしれないが、
本田さんの解説は如何にも本田さんらしい味のある話だった。
 本田さんの時代、この会社が自転車に小さなエンジンをつけただけの有名な
「バタバタ」メーカーから、曲折・辛苦を経ながら「世界のホンダ」に急成長
することができた背景には、こうした既成概念にとらわれない自由な発想や
チャレンジ精神があったのではなかろうか。時代がたっても、大組織になっても、
企業が忘れてはならない若々しさであるような気がする。
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